北京冬季パラリンピックの開会式で平和を訴えるIPCのパーソンズ会長
=3月4日、北京(共同)
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北京冬季パラリンピックの開会式であいさつした国際パラリンピック委員会(IPC)のパーソンズ会長は、戦争を非難し、平和を訴えたが、中国国営中央テレビの中継はこの部分の同時通訳を中断した。
中国で自国に不都合なニュースを伝える画面が遮断される事例は枚挙にいとまがないが、平和のアピールが不都合なのだとすれば、それは異様を通り越して異常である。
開会式では、組織委員会会長を務める北京市トップの蔡奇・党委書記が「習近平(国家)主席自らの推進と中国政府の強いリーダーシップの下で」準備を進めてきたと強調した後を受け、パーソンズ氏があいさつに立った。
同氏は冒頭で「世界で起こっていることに恐怖を感じている。21世紀は戦争や憎しみではなく、対話と外交の時代だ」と述べ、国連による「五輪休戦決議」について「違反することなく、順守されなくてはならない」と語った。
名指しこそ避けたものの、ウクライナを侵略するロシアを非難した言葉であることは明白だった。テレビ中継はこの部分と、同氏が最後に両手の拳を振り上げて「ピース(平和を)」と声を張り上げた場面も翻訳をしなかった。
北京市では5日、中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)会議が開幕した。李克強首相は政府活動報告の中で、2月に開催した北京冬季五輪について「成功」と自賛した。今年後半に開催する5年に1度の共産党大会で長期政権実現を目指す、習氏の実績を強調した格好だ。
そうした流れの中で、友好国ロシアへの批判や、ロシアとベラルーシ選手団の排除、これによる不完全な形での大会実施などは「不都合な事実」と判断されたということなのだろう。
新疆ウイグル自治区での人権弾圧やロシアのドーピング問題に揺れ続けた冬季五輪についても国内の報道は絶賛一辺倒だった。中国共産党機関紙の人民日報は閉幕翌日、「成熟した大国の振る舞いを見せた」と題する論評を掲載し、「選手からは『非の打ちどころのない大会』との声が上がった」と称賛した。事実とはほど遠い。
ロシアの蛮行を「侵略」と認めず、国連の非難決議を棄権した中国の振る舞いを、国際社会は注視している。大会の露骨な政治利用は決して許されない。
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2022年3月6日付産経新聞【主張】を転載しています